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『バリュー株投資は「勝者のゲーム」!』

 
本書は本気で資産を増やそうとする個人投資家にとって、一生涯にわたってバイブルとすべき書物のひとつとなろう。


ただし、本書を読みこなし、その本質を理解するためには、何度も読み返す必要がある。それほど奥の深い本であり、軽く読み流せてしまう投資の解説書とは一線を画す。


しばしば、個人投資家が自身の成功体験を著した書籍が刊行される。しかし、それらは結果論的アプローチが多く、ある特定の局面で通用した手法について解説しているだけで、普遍化する努力がなされていないものが大半である。


その結果それらの書物は、同じ思考法、同じ投資スタンスの人には共感を得やすい面があるものの、論理的裏付けに乏しく、再現性に欠け、読み物としては面白い場合もあるが、読者の実際の運用には役に立たないものが多い。


それに対して本書は、実績を踏まえながら、理論との整合性を検証し、過去において体系化された理論との対比がなされている点において、他の書物とは次元が異なるものである。


本書の著者である井出正介氏は、野村総合研究所から野村マネジメント・スクールの創設にかかわり、日本に欧米流の投資理論を定着させた先駆者のひとりである。


筆者も野村マネジメント・スクールの受講生であった時に、氏の講義を何度か聞かせてもらった。また氏は日本におけるMPT(Modern Portfolio Theory:現代ポートフォリオ理論)の第一人者でもある。


このMPTは1990年以降の日本における機関投資家の運用の基本骨格を成すものであり、インデックスこそ負けない投資であるという立場に立つ。


その氏が業界を離れた立場で現役時代に培ったその投資理論をいかに実践に生かすかに挑んだのが本書の内容である。しかも、MPTとは対極をなすという位置づけのバリュー株投資というスタイルでの実践記である。


まず、歴史的な議論も踏まえてMPTとバリュー株投資の違いを分かりやすく解説するところから始まる。次に株式投資のリターンの源泉が長期的にはROEにあることを説き、投資に当たってはPERとPBRで考えることの重要性について述べる。そして、なぜバリュー株投資の長期保有が成功するのかを解説し、実際の銘柄選択法にも言及する。


運用成果から言えば、結果的に2004年にスタートした試験運用ポートフォリオはリーマンショックに遭いながらもプラスを維持し、インデックスを凌駕するリターンを得ることに成功した。


もちろん実践は結果も重要であるが、その結果の解析も極めて重要である。一般的な投資の実践書にはこの部分が欠落しているものが多い。


なお、バリュー株投資とMPTは対極にあり、本書はいわばMPTの否定からスタートしている。しかし、現実にはMPTの本質を否定するものではない。


個々の投資家が個々の観測に基づいて投資を行っていた時代に、MPT理論を発見し、それによって個々の投資家に勝つことができた。


しかし、現代は多くの機関投資家がMPTに則って運用を行っていることによって、その方式がマジョリティとなったため、逆に非効率な価格形成という歪みが生じていると述べている。それだからこそ、非合理的な価格形成によって将来高いリターンをもたらすバリュー株が存在するという結論となる。


また、ベンジャミン・グレアム、ウォーレン・バフェットという世界的なバリュー投資の権威の投資手法との比較にも言及している。この二人の大御所関係の書籍は日本にも多くのファンがいる。


しかし、彼らに学び、彼らの手法を日本において実行しようとしても、少なくとも2000年前後までは彼らが投資すべきであるというようなバリュー株が日本ではほとんど存在しなかったのである。つまり、それほど日本株は全体として企業価値よりも高水準の評価を受けていたためである。


それも2000年代になると日本の株式市場が他国並みのバリュエーションとなってきたことによって、しばしば彼らの基準に合う株式が出現し始めたのである。その意味で、日本においてもリスクの小さいバリュー株投資で儲かる時代に入ってきたと言え、その口火を切る意味でさらに本書の価値は上がるのではなかろうか。


なお、書籍ではMPTについてある程度言及しているが、本稿ではMPTに関してはほとんど触れなかった。


興味のある方は無料レポート「株式投資で資産を作る方法 」を見てもらいたい。本書とはまた別の形でMPTの意味について解説している。


バリュー株投資は「勝者のゲーム」!

 

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